(210)80周年が始まった【フィンランドムーミン便り】

今年は「小さなトロールと大きな洪水」の物語を氷の彫刻に

 

2025年はムーミンの物語が世に出て80年。だからといって1月からすでに記念イベントがあるとか、これまでのフィンランドではなかったのではないだろうか。記念グッズに至っては去年の秋からすでに発売されているし、このスピード感にとても驚いている。

さて記念イベントはどんな感じか。まずは「ムーミン氷の洞窟」だ。氷の彫刻でムーミンの世界が繰り広げられる洞窟の今年のテーマはもちろん、ムーミンシリーズ第1作目の「小さなトロールと大きな洪水」。今では一年中オープンするようになった氷の洞窟なので、たとえば真夏の暑い日に氷のムーミンたちに囲まれてみるのもいいかもしれない。または外が-20℃や-30℃という極寒の時期に。-3℃かつ室内で風も吹かないという環境は随分と安定していて居心地がいいと感じられるのではとも思う。氷の洞窟の詳細については、また改めて、現地を訪ねてから来場者たちの様子なども含めてご紹介できたらと考えています。

年明けから勢いがあるのはタンペレ。ムーミン美術館が現在の場所にオープンした2017年頃、実は信号機の絵をムーミンにという話があがったこともあった。ムーミン信号は叶わなかったけれど、今年の1月からムーミンのラッピングトラムが町を走っている。その他にもムーミンやしきをテーマにした室内楽のコンサートや、2月からは図書館やその他の公共施設でムーミン関連のイベントが次々と企画されている。オリエンテーリング、読書会、踊り、ワークショップなど一年かけて町のあちこちで行われるようだ。

ヘルシンキでいま話題になっているのは映画「サマーブック」。日本では「少女ソフィアの夏」として知られるトーベ・ヤンソンの小説をもとに制作された映画。全国公開は1月31日、真冬にフィンランドの真夏の風景を、群島の風景が見られるのも魅力的だ。「夏になると読み返す」または「夏になると読みたくなる」とムーミン以外の小説のなかで特に人気の「サマーブック」なので、映画がこれからフィンランドの人たちにどんな風に受け入れられるのか、色んな人たちの感想を今から楽しみにしている。

こんな風にムーミンの供給が次々とやってくる日常にあって、自発的に創り出されたムーミンものも眩しいなと思う。個人的な話になるけれど、しばらくフィンランドを離れて久しぶりに戻ってきたら、いつもはクリスマスの日に届けられたプレゼントが、帰国したその日に合わせてドアの前に置かれていた。毛糸の靴下はフィンランドのクリスマスプレゼントの定番だけれど、そこにムーミンママが編みこまれていた。これまでもフィンランドムーミン便りで紹介してきたセーターやミトンを編んでくれている編み物上手のあの人の仕業だ。今年もやっぱり差出人の名前がないけれど、誰かすぐ分かる。ムーミントロール柄のセーター、リトルミイとスナフキンのミトンの次は、ムーミンママが編みこまれた長靴下。

イベントが目白押しのこんな時だからこそ、今年はたくさんの刺激を受けて、自分でムーミンの何かを作ってみたいなと思う。

 

帰宅すると届いていたプレゼント。今年はムーミンママが編みこまれた長靴下。

森下圭子