(211)市をあげてムーミンを祝う【フィンランドムーミン便り】

タンペレのムーミントラム

 

1月31日に公開されたトーベ・ヤンソン原作『サマーブック(少女ソフィアの夏)』の同名映画は、最初の週末に観客動員数で一位になった。夏が恋しくなった人も多く、私も原作を手にとった。いつもなら真冬にはやらないことだ。映画の撮影が行われた場所のひとつはコトカ。コトカにはトーベ・ヤンソンとパートナーのトゥーリッキ・ピエティラが夏の島暮らしに愛用していたボートが博物館で展示されている。人口5万人ほどの町ながら、その海洋博物館ではフィンランド国立博物館でコロナ禍の期間中に開催されていたムーミン展『勇気、愛、自由!』が始まった。

ムーミン美術館があるタンペレでは、3月になると『それからどうなるの?』のコンサートやムーミンのダンス公演が控えている。今年登場したムーミントラムは、すでに「ムーミッカ」という愛称で市民に呼ばれたりしているし、ムーミン谷の地図の風合いで描かれた地図を手に街を散策するムーミンウォークがあったり、子どもから大人までが楽しめるイベントが次から次へとやってくる。

さて首都ヘルシンキはどうか。去年秋に始まったトーベ・ヤンソンのパラダイス展は今も大盛況で、ただしこれが4月のはじめには終わってしまう。とはいえヘルシンキはトーベ・ヤンソンが生まれ育ち、生涯を過ごした地。ヘルシンキではトーベ・ヤンソンにまつわる場所の紹介と解説をサイト上で公開しているので、トーベが見た風景を自分で体験するのもいい。

またムーミンの第一作目が出版されて80年ということで、ヘルシンキ中央駅そばの中央図書館OODIの手仕事コーナーでは図書館のトートバッグに指定のムーミン柄をプリントできるようになっている。こちらは有料だけれど、ピンセットを使って型抜きの要領でシートに描かれたトーベ・ヤンソンのムーミン柄を抜き出してプリントするのだ。絵心のない私にとって、トーベの絵をこんな風に体験できるのは何とも新鮮だった。屋根のディテールを私はこんなに真剣に眺めたことがあったろうか。なんだか米粒がリズミカルに並んでいる姿がたまらなく愛おしくなる。かと思えば、キリリとした線で描かれた月、雨どいや煙突の細やかさ、生きもののようにのびやかな窓の感じ。手仕事コーナーはオープンスペースというのに、気づいたら私は50分ほどの時間を夢中で型抜きに費やしていた。なんとも気持ちの良い時間だった。ただ、これは難しすぎるのではという意見もあるらしく、もっと簡単な柄が登場するかもということだ。これは今年一年できるそう。

さて、トーベが幼少時代を過ごしたカタヤノッカ地区には、トーベ・ヤンソン生誕100年を記念して名づけられたトーベ・ヤンソン公園がある。ここは今「トーベ・ヤンソン公園」というプレート以外なにもトーベやムーミンにまつわるものはない。この公園に修復工事の一環で、ムーミンをテーマにした柵やムーミン像が登場する予定だそう。まだ詳細は分からないけれど、ムーミン像はハグできるような大きさで、完成は2026年春を予定している。80周年はますます賑やかです。

 
ヘルシンキ中央図書館で作れるバッグ

 

森下圭子